昨日は東京、および本牧へ出張。
名古屋から品川までは約1時間半。
出張時の楽しみといえば、車中で読む本をなににしようか、と考えることである。
読めなくても最終的には構わない。ここでこんな本を読もう、と考えることがワクワクする。
今回は荷物の軽量化も考えて文庫本を2冊。
谷崎潤一郎”陰翳礼賛”(中公文庫)と小林秀雄の随筆集”栗の木”(講談社文芸文庫)とした。
”陰翳礼賛”は、高校生の時に学校から1月1冊推薦図書というものを強制的に与えられた時の1冊。本自体はBOOK OFFで買いなおしたものだが。
自分なりに読書をこなし、言葉は読書量で文の前後から学んだ、というひそかな自負があった僕は、人に読書を薦められるのは正直プライドが許さん!という感じもあったのであるが、今思えばやはり高校生の偏った選択では選べない本との出会いであった。
素直に感謝だ。
僕は兵庫県の白陵、という学校の出身であるが、どちらかというと理数系が得意で国語が苦手、という生徒が多かったように思う。それで先生の苦肉の策なんだろうな、と感じていた。
松本清張”或る「小倉日記」伝”や、幸田文”父・こんなこと”、庄子薫”赤頭巾ちゃん気をつけて”などがあったように記憶する。
”赤頭巾ちゃん”はもしかすると、友達のお勧め、だったかもしれない。
陰翳礼賛の世界は、妙に心に残った。厠関係では落下するブツをふんわり音もなく包み込むように下に羽根を敷きつめる、という箇所があったやに思う(今本を持っていないので、うろ覚えであるが)。
強烈なビジュアルが、残っている。
究極の贅沢とはこれか、という感がある。
洋式便所にしても、ぼっとん系にしても、自分から出たブツをまじまじと感じる部分はある。それが出したとたん音もなく消えてゆくのである。なんとも典雅、なんとも贅沢。
今回一部再読をして、夏の暑さに対して扇風機をどうするか、という個所に出会った。今であればエアコンがある。扇風機が風流かどうか、と悩んでいた時代は、少し前、なのである。空調機の場合は、天井に埋め込み、見えなくなる方向だ。
プロダクトによる、生活風景の変化、というものを感じた。
8時10分名古屋発、出発時は天気が今一つであったが、浜松あたりで少し日が照ってきた。
浜名湖、藤枝静雄のことを思う。
ぼんやりとして目に風景情報が流れ込むままにする。
この時間が、思考を流れさせ、なにかを考えるモードへと僕をさそうのだが、それは前述の中高時代の通学経験が影響している。
通学には片道2時間かかった。乗り換えてJRは神戸駅から曽根駅まで。ここで1時間。4人のBOX席で窓を全開にして、須磨から明石にかけて海を眺めてゆく。僕はタバコが嫌いなので、近くでタバコを吸ってくさいおっさんがいるときは(嗚呼、今は自分がおっさんやが)全開の窓から吹き込む風で臭さを吹き飛ばしつつ、風がタバコを吸いにくくする効果もあった。
文句を言いたそうなおっさんの顔がまた気分よしというか。
今はタバコを吸う皆さんに文句はないが、とにかく自分が吸う空気にタバコ煙はNO THANK YOU、ということである。
おっさん”風、きついやないか、しめんかい”
こちら”タバコ吸い腐って!ぼけが!!くさいやろが”
というような心理的バトルが毎日あったわけである。
禁煙エリアの多い今の通学風景では、もう無い戦いであろう。
話がブレた。
言いたかったのは毎日計4時間、5年間(1年は寮に入っていた)列車に乗りつづけた結果、電車に乗って、外をぼんやり眺めると、するりと瞑想モードに気持ちがスイッチするようになったのである。
ひなたのトカゲのように、体も動かない、というか積極的に体を動かさないように努める。心は風景の横移動を目情報として入れながら、浮遊し始める。人は周りにいるが、居ても風景の一部と化す。
思えばこれは座禅で得るような三昧にきわめて近いのではないか。そのときにいろいろなものが心の中で整理でき、いろいろな考えが浮かんでは消える。
本を読めば頭にすっと入ってくる。要は集中できる、ということであろう。緊張もある。パブリックな状態にある。
片道2時間も通学で使って、なんてもったいない、などと考えることもあったが、間違っていた。なんと貴重な時間であったことか。自分を形作る時間であったのだ。家が近ければ、テレビを見てリラックス。そうなっていただろう。
出張で新幹線に乗るようになったが、列車に乗ればいまだにスイッチが入る。そんなことをぼんやり考えていた。
9時ちょっと過ぎで富士山が見える。
曇っていたが、雲の切れ間に少し頭が見えた。
例の歌を頭の中で歌いつつ、接続部の窓から眺めた。車窓が低くて見にくいのであるが。中腰で。
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