昨晩、帰国した。
小林秀雄は1952年(昭和27年)12月、50歳の時、今日出海とヨーロッパへ行っている。
朝日新聞特派員も兼ねていたということで、翌年7月までの長期間、一度行くと今度はいついけるかわからないまさに”洋行”ということばが当てはまる旅であったろう。
高峰秀子は27歳の時、幼少から養母に親戚縁者の生活費を稼ぐため、馬車馬の如く働かせられる生活にとことん疲れ果て、女優というしごとも全く放り出してパリへ行っている。
これが1951年(昭和26年)6月から翌27年1月までの7ヶ月間。高峰と小林は奇しくも相前後して欧州に旅したことになる。
おこがましくもお二人の例を挙げさせていただいたが、僕の旅、これは”出張”と呼ばれるものである。
いち池田晶子ファンであることを足がかりに始めたこのブログで、もとより此の世の”みすぎよすぎ”である仕事の事を書く気も無いが(そも最近は「コンプライアンス」で仕事のことを書けないのである)、仕事とはいっても全部がそうであるわけではなく、長時間のフライトがあり、時差があり、写真パチパチや食事があるわけである。
我が池田晶子さんも、「2001年哲学の旅」で哲学者ゆかりの地を回られているではないか。最後の訪問地、ウイーンで40歳の誕生日を迎えられている。
あとがきに曰く、「皆様の旅路の無事を、存在の彼方より、お祈り申し上げております」。
勿論ここでおっしゃっているのは”哲学の旅”であるのだが、他人が自分であるのなら、存在のなかで、哲学の旅、精神の旅と、洋行と、そしてみすぎよすぎの出張が、別のものであるはずがあろうか。
別のものとするのは、そういう風に見たい我が”限定された精神(魂ではなく)”ではないのか。
などとほおっておけばさまよいでる心を抱えながらの”出張”となりました。
まあしかし、わかってはいたが、持参した池田本(リマーク旧版)を読んで味わえるのは、やはり”いきしな”だけであった。
まああの、時差ってやつですか、こいつを”意識しないように”と意識して、無理して赤ワインなぞをガブ飲みしたりしていると、次第に意識が混濁してくる。暑いのやら、寒いのやら(多分時間を経て両方)、わけがわからず、の精神状態では、同じく酒瓶を抱えてはいても(いや、比喩です)アウトプットどころかインプットも怪しくなってくる。
いや、しかし今回は後生大事に池田本リマーク旧版を抱えての”出張”であったのだが、今新版のほうを改めてみてみると、2007年2月23日に肉体から存在の彼方へ移行された池田さん、同年の1月15日が最後の日付となっている。
最後まで意識明敏で、酸素マスクを付けてのご執筆であったと伝え聞くので、まあ、この日付は当たり前ではあるのだが、死の直前まで死を考え、魂を問うたこの姿勢、改めて思うとなんとも素晴らしい。
素晴らしく、しようとされてはいないのだが。だって、考える以外にするべきことがことありますか。
空の なさ
が
色の あり
なさ
だなんて、あなた、だって、絶対無でなければ、そんなこと!
空は むしろ
虚ろ
として、ある、色である
(リマーク 新版 P。229 2007年1月15日、原文では一部の言葉に
下線あり)
ああ、この本の惹句、いいなあ。
思索するとは謎を呼吸することだ
読むとは絶句の息遣いに耳を澄ますことである
終わりと見えることは、次への始まり以外でありえない
謎の思索日誌
なんだか、出張のことを書こうと思ったのだが、普段の”ふらふらする考え”をダメなほうの”徒然”で書くだけになってきたようだ。
とはいえ、今回は初訪問となる2国。アメリカ、メキシコ。
アメリカの印象、肉食獣の国。でもよくみると種類はいろいろ。
今の言い方で、草食・肉食、という言い方、そもそも異性を捕獲する傾向だけに特化してほくそえむような使い方で、気に入らない表現なのだが、こういう言葉の底の浅さが、かえって使用したい、という人の欲望を惹起しているように思えるのは不思議である。いや、異性を捕獲しようとすること自体を批判しているのでは勿論ないが。
そういう意味ではなく、本来の意味での肉食。獣、といってもよい、というとちょっと語弊があるやもしれないが、とにかくアグレッシブさに圧倒された、の思いだ。
なんというのか、そもそも鼻が、行き先の矢印のようにとんがっている。歩くのが、早い。姿勢はいいなあ。
まあ、ありきたりの印象だが、観光は勿論できず、人の動きのなかに分け入って、人を、魂を、感じる時間にはなったと思う。
いやしかし、日本に帰ってきたときの通関でのこの”安堵感”、なんなんでしょう。多分背が、足が、重量が大きい人間に囲まれていることのプレッシャーもあるのであろう。
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