「在るものは、それが在るものであるために、何ひとつ永遠に失われることはないだろう。生成は、或るとき在るもの自身の内部に生じた小さな亀裂から始まった、在るもの自身への無限の回帰であろう」
池田晶子 考える人 P.107
ユダヤ教の中の魔術的な思考体系、という風な感じで漠然と捉えていたが、もちろんいろいろな流派?があるのだろうが、思っていたものとは少し違う印象であった。
2つほどある。ユダヤ教の中にあるのだから、当然人格神を信じるものかと思うと、そうではないようだ。”カバラーとは信仰の体系ではなく、一種の認識体系である”。認識=グノーシス。
人格神ではなく、力に神名を付ける。
その目的は、神人合一であり、自らの神性の自覚(=グノーシス)である。具体的には自分が神の似姿である生命の木そのものになること。
前にグノーシスにつき本を読み考えたことがあった。仏教における仏性と似た思想であると思った。自らが神である、仏である、少なくともその一部である、と”自覚する”。それが自らと神を厳格に峻別する教会キリスト教から異端とされた理由だと理解している。それはそうであろう、神を対象として祈るのと、自らがその一部である、とするのは一般的にはまったく違う行為となるであろうし、現実に行なう行為が全く変わってくるであろうから。
そしてカバラーはそうしたグノーシスの思想を受け継ぎ、具体的なノウハウ、自らの精神に対する技術としてひそかに密儀として伝えられて来たものであるようだ。
そしてその技術は意外なほど科学的だ。生命の木のシートを使い、さまざまな要素を明確化し、把握し、常に意識する。これは現代のビジネス書でよくみる”願望達成のために目標を書き出す”というのと同じであり、また”結果をあたかも現実のように微に入り細にわたり想像するとこで、現実と想像の差異を認識できない潜在意識にしみこませることによって、将来像に対し現在欠けている要素を逆照射し、そのことに意識を集中させ、それに対応できる機会を常に窺わせ、”そしてそれが実現できなかったとしても、準備が足りなかったから、と自らを納得させる。
チャクラに類した精神集中技術(中央の柱)を行い、”神と合一”する精神状態を訴求するが、”そこから無事かえってくることが魔術のキモである”。
これは魔術という名をもった、精神技術であり、座禅や精神統一と同じ体系であるという印象である。
ただ、力に神の名をつける為、人格神を当たり前のものとする宗教に育った人間は、どうしても人格的な悪魔や神にアクセスする技術として感じてしまうことから、異端とされ、それを避けるために密儀として隠し、伝える人間を限定してきたのであろう。
そのように感じた。
人が”科学的”と言う時には、”自ら考えず、人が考えた(=証明した)とされる事実を鵜呑みにするときの言葉である場合が多い。たしかにそうした事実があるのかもしれない。しかしそれは自分の中で実感されているか。それについて把握し、自らのなかでどのように納得するのか。
万物は水である、とタレースは言った。水かどうかはともかく”万物は”と考えることが思考のなかでの大きな転機であったと池田さんは説いた。お化けは不可解でもなんでもない、いま自分がここにあり、生きていることの不思議さに比べたら。
そんな風にもおっしゃっていた。
魔術、ということばは、それが本質的に持つ深さ、人を納得させる力を感じ恐れた、それとば別の体系を持つ思想側が、人をそこに行かせないために使った方便としての賤称である、といえるのではないか。その本質が訴求するPOINTは意外にも明確である。
そんな風に感じた。
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きっかけは、といえば、上記で紹介した”神秘のカバラー”をブックオフで105円で発掘したからであった。いやどう考えてもこれは安いだろう、と思ってとりあえず買ったのだが、それが訳者でもある大沼氏の体験を記した本をよむきっかけになった。
そしてどうもこうしたものの起源はエジプトにある、という印象を持った。ここに関しては勉強不足だが、ユングも自らを”アレキサンドリアのバシリデス”に模して”死者への七つの語らい”を述べている。ギリシャ思想もエジプトの思想から影響を受けて発展したものだという印象を持っている。中国文明とエジプト文明。文明の起源はそのあたりにあるように感じた。
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