池田晶子さんの著作を通じて、四聖、というものを改めて意識した。等身大の思索者として意識しなおした、というところか。
これだけでも、ものすごくありがたい。
この日本という国に生を受け、僕は実は複雑な宗教観を持たざるを得なかった。
まず僕は幼児洗礼を受けている。正式にはどうなるのか解らないが、クリスチャンネーム、というものがある。これを持っている人に日常生活ではほとんど会わない。
母方の祖父は”積極的に無宗教”ということだった。父方の祖父が亡くなったとき、父方の系統は”神道”であることを初めて知った。つまりそういう話題が家庭内で一切なかったということだ。
そして勿論日常生活では初詣などがある。そして日本で最も多い”宗教”である仏教の影響は日常生活で様々にある。初めて”シッタールダ”を意識したのは、萩尾望都”百億の夜と千億の夜”この既にタイトルからしてめまいを(半ば陶酔の)感じる作品を読んだことがきっかけではあったが。
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ということで、僕の中ではとにかく何がなんだかわからない、というかなんでもあり、の状況であった。それは大多数の学校の友達が夏に行う”お盆”がなかったり、寺で”拝みなさい”といわれることがなかった、という意味で”一般の日本人”とすこし違っていたかもしれない。幼児洗礼、といっても幼稚園児のとき近くの教会にゆき、カードやアイスを貰った記憶くらいしかないのであるが。
そして世界に目を向ければ、ほとんどの戦争が最後に引き金を引かれる大きな理由は”宗教”の違いであるように見える。”あいつらは違う神を信じている”。そのことで相手が同じ人間である、という意識を強制的に封印できる。
”宗教っちゅうのはややこしいなあ”
そしてそのことの張本人である”四聖”に対しても、どうしても”敬して遠ざける”という感じが出ざるを得なかった。
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そしてその意識を打ち砕いていただいたのが池田さんの著作。週刊新潮の哲学エッセイから池田さんを知った身であるが、その著作を辿るうち、ほどなく”ソクラテス”に出逢った。
まあ、”池田ソクラテス”であったが。しかしそのソクラテス、プラトンが書いたソクラテスをまさに”墓からひっぱりだして”現代のとほほを分析批評させる、というまさに自ら依代となられての実在であった。
いやあ、これってやはり池田さんの色が出てるのでは?
そう思ってプラトン版を紐解いて見れば、まさにそこに池田さんが”口寄せ”したのと(僕にとっては)同じソクラテスが口角泡を飛ばしているではないか。驚いた。なにに?いや、”こんなに古い時代にこんないまと同じことを考えていたのか”ということにまず。(まあ、プラトンのソクラテスもいわばプラトンが口寄せしたものと言えるのだが)
2500年前って、今といっしょやったんか!!
まさに”蒙が啓かれた”思いであった。
返す刀でほかを見れば、人間ソクラテスはブッダより年寄りなのだ!イエスに至ってはもっともっと後の人!孔子はすこし前だが、これは漢文の授業で人間として認識済み。というか、孔子は自分のなかでは特に”宗教の始祖”という位置づけではないのである。
孔子(前551−479)
ソクラテス(前473−399)
ブッダ(前463−383)
人間として、4人の偉大な思想が眼の前に現れた思いがした。
特にブッダとキリストは、神としての超人性を子供のときたんまりと見たせいで、そもそも”個の思想”をもった個人、というイメージがなかった。(宗教者にするともしかするとけしからん考え方なのかもしれないが)
そこのところを示すことが出来る、ということは、実はすごいことなのではないだろうか。これももしかすると、なに当たり前のことに感動しているのか、とおっしゃる方が世間には多数いらっしゃるのやもしれないが。
というようなことを、”人間ブッダ”がたどったインド各地の今を、美しい写真で示す丸山勇”ブッダの旅”を、神戸から名古屋に向かう新幹線で紐解きながら思ったのであった。
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そして池田さんご自身のソクラテス的(虻的、ともいうが)アプローチについても。
”どっこい哲学は金になる”
”死に方上手”
この、日の目を見なかった著作タイトル(雑誌掲載時に使用)を見ても、実は”このタイトルの真の意味、わかる?という池田さんの解りやすい問いかけなのである。
それを一読、藤澤令夫は”わかりつつも怒り”、そして和解。このあたりのスリリングな会話は、僕が”2001年哲学の旅”で最も好きなところのひとつだ。
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”魂というのはもうすこし大きくて古くからのものだ”
藤澤令夫
”どれが何なんだか、全部がいっせいに渾然と動き出す感じがあります。「魂」と言った途端にウワーッと広がって、底が抜けちゃうみたいな。”
池田晶子
P.134 2001年哲学の旅より