自分探しを世界を経廻って行う、
あるいは多くの職の経験から行うのは違う、
まずはみずからが今ここにあることの奇跡に驚き、
自らの魂に向き合い、深く対話を行うことで自らに出会うべし、
・・・池田晶子さんならそうおっしゃる気がする。
自らの外に真の自分がある、という心構え、ここになにがしかの甘えや逃げがある、というご指摘でもあるだろう。
池田さんの有名なる一喝、”悩むな!考えろ!”
に因んでいうなら、”逃げるな! 考えろ!”となるのだろうか。
そんな風に大体考えていた(いる)のだが。。。
なぜか女流の文筆家に惹かれる。
池田さんはフェミニストによく攻撃された、とおっしゃっていた。これは魂には男も女もない、考えに男女差があるわけがない、あるのならそれはあなたの問題でしょ、
とある意味問いの立て方の根本から揺るがせてしまうそこをたぶん攻撃されていたのだとの理解である。
”そう言われてしまうとおしまいなのよ”
ということではないだろうか。
しかし、それならどうして女流の文筆家にこうまで惹かれるのか。
池田晶子、須賀敦子、片山廣子(松村みね子)、高峰秀子、白洲正子。
すぐに思いつくだけでもとたんに何名も出てきてしまう。
海外作家ではそうでもない。
フィオナ・マクラウド。
村松みね子名義で片山廣子が訳した”かなしき女王”。覆面作家として女性名で出版されたが、実は男性作家である。
そういう意味では、昔親しんだ幻想文学。トールキン、ルイス、ロフティング。
海外作家ではこちらは男性陣が好きなようだ。
これはもしかすると日本人(と自らが思っている人々=池田さん流にいうと、日本人であることも思い込みになるが)、特に男性に見られる傾向がなんらかの形で僕の好みに影響しているのかもしれないが、
まあ、ただ我が内なる魂が、世間一般では”女性性”に近しき系譜だと感じていたとしたら、マクラウドが女性名で作品を発表したのもなんとなく頷ける。
美しいものに惹かれる心、どうしようもなく、惹かれ引っ張られる。
これは果たして女性的、なのであろうか。
前置きが長くなった。
ここには松山厳氏による須賀の詳細な年譜が含まれる。
数百ページに及ぶ年譜、それはそれだけでその中にあった”須賀敦子”という人格、そこに思いがもっていかれる、
それだけで一つの物語であるようなものであるのだが、
そのあとにある松山氏によるあとがき、を読んでいて、自らの信仰を探す旅、これはあるのかなと思った。
信仰を探す。これはまず自らの魂に向き合わねばならない。
須賀はみずからのなすべきことを探すため、”戦後の日本社会に裏切られ、パリで「あたらしい神学」の渦中に身を投じようと、たった一人で海を渡って”(同解説P.619)留学生となった。
だがパリでは”化石のようなアカデミズム”(同上)にぶつかり悩み、そしてイタリアへと赴く。
”「なんの脈絡もなく、薔薇窓やステンド・グラスの華麗なカテドラルを造って、彼らの時代の歓喜にみちた信仰を美しい形で表現しようとした中世の職人たちのことが、こころに浮かんだ」”。
パリで、ローマ教会から禁止された労働司祭のミサに参加した際に感じたことを、須賀はそう記した。そしてそのミサのあった場所が、”十三世紀の天才的神学者アクイナスのトマが、ナポリからパリに来てソルボンヌで教えていたときに泊まっていた修道院に違いないことに気づ」くのである。”(同P.618)
ローマで過ごしたあと、須賀は古都アッシジへ向かう。
800年前、聖キアラが暮らした街で、須賀は”「三方を高い石の壁にかこまれた一坪ほどの細長い空間」、「聖キアラの庭」に心を奪われる。雛菊とわすれな草の植え込み。二匹の金魚が泳ぐだけの水たまり。”(同P.620)
”私の現実は、ひょっとすると、このウムブリアの一隅の、小さな庭で、八百年もまえに、あのやさしい歌をうたった人につよくつながっているのではないだろうか。私も、うたわなければならぬのではないだろうか」”(同P.620)。
松山氏解説からの引用が続く。もう少し引用させて頂く。
”これは至福であり、この喜びはさらに、庭を案内した修道士が呟いた聖フランチェスコの詩によって高まり、至福は恩寵であると気づく。
「しばらくやんでいた雨が、またばらつきはじめた。案内の修道士(フラテ)が、金魚の水溜まりに浮んでいた二三枚の葉をとりわけてやりながらつぶやいた。雨だよ、たくさんあたっておたのしみ」”(同P.620-621)。
恩寵、との出会い。
これは、
これは、みずからの魂に向き合って悩み、苦しみ経廻ってそして出会ったものではないのだろうか。
場、にいること。
魂の容れ物としての身体を、その場に居させて初めて感じ取れるもの。
そんな”自分探しの旅”、がもしかするとありなのかもしれない。
池田さんにそんな問いをといかけてみたい、そう、思った。
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