風邪をひいた。
最近はあまりひいたことがなかったので、結構つらい。会社があるとある意味会社に行きながら治す、という感じなのだが、考えたら会社には迷惑をかけているのかもしれない。
最近は、いろいろなことばを味わう力が少しはついたかな、と思う。というよりは、大量の文章を資料、資材のように読み込んで自分を練り上げたい、と思う部分が若い時はあったのだが、あくせくと、がつがつとそうする時代はすでに過ぎたのだな、となんとなく自分(=魂的に)で分かってきたのかもしれない。
”若い時”といった。池田さんも若葉のころ、来し方を振り返るのではなく、死を思ったとき、若さというものから自然と違う面を見だした自分(=自然)に客観的に興味を憶えられたことがあったが、そのあたりを大峯顕氏は、詩人のこころといい、観音、と称された。
池田さんと大峯さんの対話集、”君自身に還れ”は”ジジイ殺し”を照れを込めて自任された池田さんの真骨頂を見る思いがする。大峯さんを捕まえてジジイは失礼だが(池田さんが大峯さんに対しおっしゃたのではありませんので為念)、娘のような池田さんが、実は大峯さんより早く逝った。最晩年の作、となるのである。いのち根性がない、とおっしゃった池田さんであるが、その事実に慄然とする私もまた、ここにいる。
昨日の稿だったか、人は死者を忘れないかぎり死者は死なない、と書いた。池田さんは永遠に若いままだ、と書いた。
もう、池田さんが亡くなった齢を、過ぎているのだ。。
なんということか、なんということか。
善く、自分は生きているのか。
池田さんを思うとき、その言葉がセットで思い出される。
2月は、僕にとってちょっとセンチメンタル?な月なのかもしれない。
・・・・・・・
昨日の新聞で、池田さんのことを橋本五郎氏が書いている。月に1回の”五郎ワールド”は結構好きなのだが、橋本氏が実は池田さんが奇異に思った”21世紀に向けて政治を問う”を仕掛けた当人であることを初めて知った。政治と池田さん、小林秀夫と政治の距離感と似た、でももう少し時代性(戦時中)から違和感のある組み合わせであるのだが、そうか、橋本さん、池田ファンだったのだな。
いい人だ。
読売新聞では、同じく月1回の”時のはざまに”というコラムで池田さんのことが取り上げられることがある。何度か、見た。
読売新聞、それだけでも購読する価値はあるなあ。。
同コラムで橋本氏は大峯さんが”三田文学”の最新号に「回想の池田晶子」というエッセーを載せていることを教えてくれている。ありがたい。
そこで、池田さんから亡くなる4か月前に届いた手紙のことが述べられているという。孫引きになるが引用してみる。
”相変わらず厄介な病気を抱えておりまして、日々剣ヶ峰を歩いております。が、それは本来の人間の在りようなのだから、ちょうどいい修行だと腹をくくってります。
ひとつ気がついたのは、例の”いのち根性がない”ということ、生きようとするのは執着なのだと私はずっと思っていたのですが、どうもそうではないようですね。人が生きようとするのは意志、生命本来の意思として肯定されるべきことのようなのです”
こうして池田さんの文章を写していると、池田さんが語り掛けてくださるような思いがする。写経、という行為の意味が、実感されるところだ。
いのち根性がない、と池田さんがおっしゃるとき、深く納得しつつなにかさみしい思いがしていた。そういわないでくださいよ。われわれ衆生に(ああ、自然とこのことばが)もうちっと言葉を、真実を残してくださいよ、と。
そしてもしかして若い時分からの病気が、池田さんのその思いを強めているのかもしれない、とも密かに思ったりしていた。
ここからも橋本さんのコラムからの孫引きになるが、上記の手紙を読んだ大峯さんは、
”大いに喜びました。「明るい孤独な思惟の中で池田晶子の長い旋回はついにその最終的な局面に入っていたに違いない」と思ったそうです”
仏教学者で哲学者で詩人でもある、大峯さんの慧眼を感じる。そしてこの手紙、池田さんを語るとき、大変に重要な手紙なのかもしれない。
いのち根性のなさから、池田さんは飛翔されていたのである!
飛翔せねばならないのかどうかはわからない、わからないが、長い闘病生活、”剣ヶ峰を歩く”と称されるような生活の中で池田さんが到達された思い。
それをこうして著してくださった、大峯さん、新聞コラムという分かりやすい手段で伝えてくださった橋本さんに、いち池田ファンとしてただ感謝である。ありがたい、とは得難いことをいう。感謝がそのことばのなかに既に内包されている。その言葉の本来の意味で感謝したいと、思う。
しにとうない、これが人の、生の、裸の、震える魂の、”本音”なのかもしれない。
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さっそく、三田文学をオーダーした。AMAZONでは売り切れのようだ。
特集は須賀敦子。こちらも僕が大好きな作家だ。
得した、キブンである。