ドジスン教授のアリスを読んだ。
初めてディズニーのアニメで接してから、子供の頃はあれはディズニーの創作だと思っていた。その他の作品も実は原作がある、と知ったのは何時だったろうか。
その後テニエル卿のオリジナルイラストを見たときは一驚した。アニメは基本的にテニエル卿のイラストを下敷きにしているとのことであるが、その仮面風、とも称されるアリスの姿に、このヴィクトリア朝のまじめくさった中産階級のちょっと不機嫌なエプロンドレス姿に、正しくキャロルたるドジスン教授とテニエルの工夫と熱意を感じ、ある時期の少女の一瞬のはかない姿、そしてその時代にのみ存在しうる空気、のようなものを正しく冷凍保存できている、と感じたからである。
ここに来て、アリスの物語は、様々な姿を取り、夢のなかで演じ続けられる、しかし本質は”ひとりの”、ひとりっきりの、少女の魂の遍歴である、という形を僕の中で取るようになった。
この本を独身で(そもそも独身がオックスフォードの教師としてその住まいに住む条件であったのだから)自らも絵心がありその時代を代表する写真家であったキャロルの秘めたる深層心理を示すものだ、という解釈を楽しむ向きもあるようだが、そういうことは僕自身はあまり興味がない。そうした解釈は可能かもしないが、”そういうことをしても自分はあまり面白くない”。そんなことよりこの物語だ。そう端的に感じる。
この物語の核は何か。どこがどのように魅力的なのか。
僕にとってそれは魂に似た純粋精神たるアリスが、”夢”の中をさまよう、という部分なのである。
一体夢オチ、というのは創作のなかでは安易で一番使ってはいけないオチ、ということになっている。それは理由として”不思議なことが何でもゆるされるが、それは実は夢のなかでの虚構という瞬時のオチにより本当ではないこと、でもありうること、という2流の位置に落ち込む”からである、というのが僕の解釈であった。
しかし、そうなのか?
池田晶子さんの著作を読んで、夢とは?胡蝶の夢の物語を引くまでもなく、そも夢とは一般にはたあいない夜の脳の勝手な暴走のように思われている夢は、本当にそのようなものなのか?夢は現実とどう違うのか?という視点を得たとき、そもこのヴィクトリア朝の少女に託したドジゾン教授の真に求め得たものはなんであったのか、と感じ出したのである。
夢は一般の人がいう夢とは違うかもしれない。
それは実は池田さんが全ての”既存の”思い込みを排除しなさい、と仰ったうちの一つかもしれない。生きるとはなにか。死はどこにあるのか。魂とは。宇宙とは。そのなかで既存の”そう考えると楽な””なんだかわからないが、人類として今はそう考えるお約束になっている”考えを一つ一つひっくり返してこられた。それは立ち居地としてはまさに現代のソクラテス。君がそうだと思い込んでいるそれは果たして本当にそうなのかしら。
池田さんの魂とか、ソクラテスの魂とか、そういう個人とは別の隠された(身もふたも無いと思われていて実は深い開放感のある)世界精神たる大きな意識(このあたり誤解されるとニューサイエンスとかといわれると池田さんは注意されたが)として、そんな視点で夢、を考えたとき、そこに立ち現れるものは、夢の軽視、からの自然な離脱であった。
つまりは単純に、この物語の”現実味が増した”のである。
1865年に確か出版されたこの本、40カ国以上で訳され読まれていると聞く。これは物語の魅力もさることながらたぶんディズニーアニメの知名度と汎用性もその理由であるだろう。しかし様々な翻訳家や作家がその訳文を競い、”アリス狩り”と称してアリスについてのあれやこれやについて論考し、そして様々な画家が自然と”自らなりのアリス”を描いている。これは一体全体何故なのか。
こうした姿は、民話や古典童話が各国で様々に読まれる姿に酷似している。そもそもディズニーアニメになる、ということが、そのような古典童話とこの物語を同列のものに感じさせる機能を持っているのだが。
しかし物語自身のもつ存在感、これを翻訳者の一人である矢川澄子(今回僕は矢川訳で読んだのだが、大変読みやすかった)は、一瞬たりともリラックスしない、ひとりっきりの少女の孤独、と言った。これは大変正鵠を射ていると思う。この物語、最初から最後まで少女の震える孤独感、を感じる物語であるのだ。
その部分が”いい大人たち”をまじめに取り組み考えさせる部分なのだろう。
タイトル、ちょっと強引ではあるが、我が池田晶子さんもまた、”みんなが生きているように生きていない”この世のなかで、ひとりその孤独なる魂を持って夢のなかにいるひとのように46年間を駆け抜けた、そんなアリスの一人であったのだなあ、と、
ちょっと、
すこし、
感じたので無理やりつけて見ました。
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最後の画像はちょっと関係がなかったのですが、”童話”の代表として”青髭”から。ダリのALICEを探したがなかったので。