接点がなかった2人であるが、共通点が何点か在るように思う。
というより、僕が興味を持つ人々に一定の型があるのであろうか。
何のためにか生まれた。あとは死ぬまで生きるしかない。
両者ともそうした諦念に在ったように思う。投げやりではない。むしろ決意、むしろ強い意志。
求道者、という一般のイメージ(そとからみてあきらかに)ではなく、魂の求めるままに自らのスタイルを堅持して生きた。
高島氏は、電気も水道もない場所を敢えて探して、人が一人も通らない場所を敢えて見つけてアトリエとした。自ら畑を耕し、一人きりで。池田さんはこのパソコン、ウェブ時代に背を向け、TVも愛犬の散歩のために天気予報の為だけに見る、原稿はコクヨに100円のボールペン。
画家は画業を”魔業”と呼んだ。業はなりわい、ではなく、”ごう”と読むべき、やらざるをえない因縁の行い、の意であろう。魅入られて、いけないものとしての入り口から入り、眼を純化し、モノに長年しみこんだものを洗い流す作業を持って、絵にそれを留める”むなしい"作業を気の済むまで一人で行う。
”ことば”に対し、同じことを行う人は、詩人と呼ばれる。池田さんはそうした意味での”詩人”の一人であった。
藝術は深さとか強さを取るべきではない.「諦」である。
日々枕元に画家が置いて書き止めたという”ノート”にそう画家は書いている。
時間というものは無い.時間とは人生そのものだ.
そうも書いている。逆の言い方で同じことを述べたのは小林秀雄だ。時間は人間が発明したもの。つまり発明した=決まりごと。つまり時間は本来は無かった。考え方の一つの型、のようなものであろう。
藝術とは時間空間を超絶した実有の事だ.
そう思い定めて取り組む”魔業”の深遠のなんと魅力的なことか。一人で絵に対峙し、自ら一つの眼ともなって。そうして出来た絵を画家は売ることはあまりせず、何年もともすれば何十年も画室に架けて見続けたという。”勉強”と称して。自らの絵の一番の理解者は当たり前であるが自分なのである。モダレートな生活をするために必要最小限の費用を捻出するために絵を売るが、それ以外は本来すべて自らの手元に止めておきたかったのであろう。それが"魔業”に魅入られるということ。それが宿痾の如き甘美な罠。そこに陥ることは業、としか言えないものである。それがよくわかっていた
から画家は魔業の言葉を使い、そしてその愉悦は静謐なその画から実は抑えようもなく滲み出ている。
そして見るものは其れを感じて画の前を離れられなくなる。画に淫する、と言ってもいいかもしれない。画家が人物画を書かなかった理由は実はそのあたりを画家自身が感じていたからのような気がしている。池田さんが本当のことを、それがあるがままに語るとき、それは裸にされ、事物の、あるいは行った人間の心根の"核”が剥き出しになる。容赦なく。其れが池田さんが物事に対するルールであり、人はそこまで”根性入れて生きていない”。画家と"巫女”が絵筆の一筆一筆、或いは一言一言に込めた信念、生き方、は驚くほど共通項があるように僕には感じられる。
ノートの最後に書かれていたという言葉はこうだ。
”下上後前天地四方八方十万足の裏からまで吹きつけて来る
吹雪の中
身をよける片物もなく
花も散り世はこともなくひたすらに
ただあかあかと陽は照りてあり”
宇宙の中、自ら魂としてあり、ただ一人で、
浮かび、眼を持ち、全てを見て、結局あるのは陽、のみ。
画家が売るためではなく、人のなかの仏性に対し奉納した、ともいうべき蝋燭の絵や月の絵。
2人が会談したらどのような会話になるであろうか。
最近僕はそのようなことを思う。
池田さんと埴谷雄高、は幸福な出会いがあり、言葉を重ねた。
池田さんは又、自ら惹かれる禅、の世界とはまた少し違う仏教、の世界と、大峯顕氏との会談で接した。
そして睦田真志氏とは、刑務所との往復書簡で。
小林秀雄、とは魂の融合とも言うべき書、”新・考えるヒント”で”会話”した。
こうして見ると池田さんは人とあうことの名手だ。みずからおせっかい焼きだ、ほっとけない、とおっしゃるのもわかる。自らを”ジジイ殺し”、ともおっしゃっていた。自らに課した、一人で生きるルールを守るために、時に”狷介”とも称された画家の思いを、池田さんは全て受け止め、理解するだろう。画家にとっての”絵”と、池田さんにとっての”言葉”が、じつは同じことの別の言い方であり、アプローチであることの確認も又、そこではされるに違いない。
そして画家は池田さんに自らの蝋燭か月の絵の一枚を託すのかもしれない。池田さんの中にある”仏性”への奉納として。
そんなことを考えて、なんだか楽しい気持ちになった。なんだ、これは池田さんが、ソクラテスシリーズで行っていたことと同じではないか。”帰ってきたイケダアキコ”、というところであろうか。
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